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第8話 エターナルアザーの記憶

last update Last Updated: 2025-05-19 12:48:34

 ダジリン島……。

 私達が現在住んでいるブリガンと対極に位置する島であり、世界の北西に位置するもう一つの孤島であった。

 ブリガンと違うのは全体的に温暖な気候であったため、海域での海賊とのいざこざが多かったという事。

 悲しい事に、歴史上恵まれた大地には争いごとは絶えない。

 その為、幸か不幸か争いごとに強い一族が必然に王として君臨することになる。

 これがダジリン島王家が世界最強の海軍を持つ所以であった。

 また、人族の王はダジリン島に住まうエルフ達とも同盟を結んでいた。

 理由は現状味方をつけないと、人だけではやっていけないと聡い人族の王は理解していたからだ。

 結果その聡いダジリン一族が島を統治した関係で、この島の名前はダジリン島と命名される。

 なんでも私達エルフはこのダジリン島の豊かな森林を拠点として暮らしており、無益な殺生はしないとか肉は食べない堅物とか聞いたことがある。

(ちなみに私は生粋の森林育ちでは無いから肉も魚も大好物です) 

 話をエターナルアザーに変えるが、組織の長はなんとあの伝説のバンパイヤだ。

 ちなみにバンパイヤとは吸血鬼やドラキュラという別名もあり、人の生き血をすすりコウモリなどに変身する超強い不死の異形生物の事だ。

 走る速さも狼並み、鉄の棒も軽く一ひねりできる怪力を持ち、モンスターヒエラルキーの中でも頂点に近い存在らしい。

 ただし、太陽の光や聖なる十字架、聖水更には水に弱く、何故かニンニクも駄目らしい(謎)。

 で、このバンパイヤ、何千年という古い歴史の中でこのダジリン王家との戦争に敗北した一族、つまり元は人であったという噂も聞く。

 何はともあれ、そのダジリン島から少し離れた更に小さな孤島に【エターナルアザー】の居城はあった。

 私がこの居城に連れてこられたのは、さらわれたとも捨てられていたとも聞くが真相は定かでない。

 なにしろ私は生みの親を見たことが無いのだから。

 ただ、理解出来ていたのはこの組織での生活はそれなりに充実していたという事。

 で、周囲はもれなく組織の関係者だし、私が理解しているのは「組織の長の言う事は絶対だ」という事で、「長に気に入られるためには、金銀財宝に対する目利きやそれなりの戦闘能力が必要」だった。

 そう、その理由は私達の組織【エターナルアザー】は世界を相手にする怪盗集団だったからだ。

 アジトの場所も辺境の地の離れである為か無骨物以外誰も近づいてこないし、そもそもアジト近くは深い霧がでており誰も近づけない仕様にもなっている。

 これはまあ、長のバンパイヤ能力の仕業らしいけど。

 それに仮に酔狂なバイキングなどが近づいて来ても、バンパイヤ長を始めとする異形の集団がアジトに近づく前にそれらを易々と葬り去ってきた。

 話は少し変わるけど、黒い噂ではダジリン王家と【エターナルアザー】は繋がってると言う話を良く聞いた。

 実際の話、繋がっているというより長が関係を繋げたというのが正しいだろう。

 最強のダジリン王家の海軍がバックにいる最強の異形の長が統治する世界トップクラスの怪盗集団【エターナルアザー】。

 裏事情に詳しい裏業界ではそんな認識だった。

 そんな中、組織から離脱する術も無く、選択権が無い私は組織で生き抜くしかなかった。

 しかも、私は生まれつきエルフとしては欠陥があり魔法が一切使えなかったのだ。

 早い話、魔法使いとしてはどうしようもない落ちこぼれで、「もしかしてその関係で私は捨てられたのでは?」と幼心で考えた事もある。

 が、嘆いたところで何も変わらないため、私はそれを補填するように女がてら剣の腕を必死になって磨いた。

 非力ではあったが代わりに剣技を死ぬほど磨き、結果戦闘能力が鍛え上げられた。

 戦闘力とは対照的に、選美眼はたまたま生まれつき持っていたお陰でそこは組織としてはいたく重宝された。

 そんなある日15歳になった私は長に呼ばれ、長の部屋に行く。

 ダジリン島に隣接した更に小さな小島、【エターナルアザー】のアジト【トランス城】がそこにひっそりと佇んでいた。

 島の天然の岸壁を丸ごとそのまま利用しているからか、城というよりは岸壁の天然要塞であった。

 そんなトランス城の最上階に長の部屋はある。

 岩肌にうちつけられた波音しか聴こえない闇夜に浮かぶ昴と瞬く静かな静かな夜……。

 そんな中、まるで闇夜にかかる光のカーテンのような月光を頼りに私は満月夜の回廊を静かに歩いて行く。

 長の部屋のドアを静かにノックし、長の「入りなさい」という優し気な声を聞き、安心して私は部屋に入る。

 その部屋は不思議な事に月明かりが強い場所だった。

 更には紫色に光る硝子細工のランプがその月光と共に明々と不思議な光を放っていた。

 その硝子細工のランプはなんでも長のお気に入りのマジックアイテムと聞く。

 それらの光を恍惚と浴び、長は真紅の玉座にスラリとした長い脚を組み座り静かに佇んでいた。

 身にまとったブルーの燕尾服からも体のラインが分るくらいに引き締まった長身、真っ白いまるで彫像のような肌に、整った端正な顔。

 金髪のミディアムヘアが空いた窓のそよ風を受け、まるで金糸のようにふわりとなびくのはとても様になっている。

「調子はどうだいレイシャ?」

 まるでルビーのような真紅の瞳で私を見つめ、優しく私に話しかけて来る長。

 その声色はとても魅力的で、まるで弦楽器の音色のように私の心に響いて来るようだ。

 けど、逆に私はそれがとても恐ろしく感じたのだ。

「ええ、お陰様で楽しくやれてますよ長」

 だからこそ私は流暢なお辞儀をし、当たり障りのない言葉を選ぶ。

「はは、君は聡いな。だが、それがいい……」

「は、ありがとうございます」

 幸い長は私のことを気に入っているようだし、だからかとても優しい。

 が、なにしろこの組織の長である。

 だから、最低限の礼は尽くすべきと私は考えているのだ。

「まあ、気を楽にして聞きなさい。今日レイシャがここに呼ばれた理由は分るね?」

「はい15歳になった今日、組織の最終試験を長から聞くためです」

「そうだね。では試験を早速始めようか……」

「は、はい……」

 私は緊張しながら長に返事をする。

 私が緊張しているもう一つの理由……。

 それは、最終試験の内容は誰からも聞かされていないためだ。

 というのも最低限の知識として組織の知人達から聞いていたのは「試験内容は長から直接だされ内容は個人ごとに違う」という事だ。

 そして、この試験に落ちた者はその後誰もその姿を見たことが無いと聞く。

 なにしろ長は最強のモンスターの一角としても名高いバンパイヤであるし、幹部クラスの全員もほぼ同格の異形の猛者達だ。

 試験に落ちた者がどうなったかは容易に想像出来るというもの。

 だからこそ私はそうなりたくないが為に緊張していた。

「なに、緊張しなくていい。何故なら君は試験のほとんどの条件をクリアしてるからだ」

「えっ?」

「ふむ、詳しく説明させてもらうとだな。この組織で怪盗組織の一員としてなにかしろの技術を一人前に習得出来ていれば第一条件はクリアなんだ」

「は、ありがとうございます」

 私はその長の言葉に少し緊張がほぐれ、安堵する。

「君の場合、魔法の才能は全く無かったものの、その生まれつきの美貌と選美眼が元々あった。更には私から受けた剣技を磨き、独自の技へと昇華させた」

 私は長が決してお世辞を述べる人でない事を知っている為、その言葉を黙って吟味して聞いていく。

「一言で言うと、私は君を組織の誰よりも高く買っているんだ。だから君の場合はこの組織の一員というより、幹部候補としての試験を出そうと思うんだよね」

「……え?」

 私は長のその言葉を聞き、驚きのあまり目を大きく見開いてしまう。

 というのも、まさか自分が幹部候補として選ばれているとは思ってもいなかったからだ。

 正直私の生涯プランは組織の試験をなんとか合格し、後はほとぼりが良いとこで組織からなんとか抜ける気でいた。

 理由としては、怪盗というリスキーな組織当たれば裕福でいられるかもしれないがやはり世間では俗という認識。

 しかも失敗すれば間違いなく死がつきまとうし、私の親しい同志たちも実際何人か亡くなった……。

 組織以外の環境に置かれていない私も何が真っ当かと言われると困る。

 でもこれだけは言えるが、いつぞやの任務で辺境の田舎に行ったことがあった。

 広大な平野にのんびりと歩いている羊と羊飼いたち。

 「私もこんな生活が可能ならば……」と、その時からスローライフ生活に憧れを抱いてはいた。

 が、幹部となるとまた少し話は変わって来る。

 理由は幹部特権が与えられ、組織を変革出来るから。

 つまりある程度自由は効くし、この世界的怪盗組織を意のままに動かせるのだ。

 勿論、超常的な力を持つ長の元でにはなるけどね。

(どうせならイチかバチか組織を自分の手で変えてみるのもアリかもね!)

 この時、私の腹は決まった。

 長はそんな私の考えをまるで理解しているかのように、私に向かって満足そうに微笑みゆっくりと頷いている。  

「どうするレイシャ?」

「勿論喜んで引き受けるわ」

「そうか、君ならそういうと思っていたよ! では試験を始めよう!」

「は! お願いします!」

 私は再び少し緊張しながら返事をする。

「そんなに緊張しなくていい。すぐ終わる……」

「え……?」

 長は真紅の玉座からゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって優雅に歩み寄って来る。

「……あ、あの? 一体何を?」

「レイシャ、君は永遠の命に興味はないか?」

「えっ⁈」

 長の言っている意味は分からなかったが、何故か危機感を感じ私は少し後ずさる。

 が、その時、驚いた事に何者かに肩を掴まれる!

(こ、この部屋には誰もいなかったはず? それに私に気配を感じられずに近づける者が長以外にいるなんて……)

 自慢じゃないが私は人の気配の察知は得意だった。

 だからこそ、今までなんとか怪盗をやり続け生き残る事が出来たのだから。

 そして、私は気が付いてしまう。

(肩を掴んでいる手が……冷たい……⁈)

 そう、明らかに人の手ではない。

「レイシャ、君が今感じた通り君の肩を掴んでいる者は私の忠実な僕だよ……」

 私はその長の一言で私の肩を掴んでいる者の正体を察してしまった……。

 更には試験で行方不明になった者の末路も。

 その冷たき手の主にはこの城内で何回か見た事あるものも、いた……。

 そして、これから私がどんな目に合うかも……。

「や、やめて下さいっ……!」

 私は身を震わせ首を横に振り、長に必死で懇願する!

 その為か月明かりを受けた私の銀髪は激しく揺れる。

「怖がらなくていい……。なあに、すぐ済む……」

「い、いや! わ、私はエルフである事を捨てたくないの!」

(それに何よりも、太陽の元を歩けないのは嫌! 海でのバカンスも出来なくなるのは……)

「もう遅い! 君は幹部試験を受ける事を常任した! これは君と私の契約なのだよ、レイシャ!」

「あ、ああっ……!」

 自身の首元に凄まじい激痛と熱い何かが流れ落ち、意識が次第に遠のいていくのを感じ取る私……。

 私はこの時痛みと共に思い知ったのだ、いくら優しく感じていても長は人外のバンパイヤ。

 人やエルフの常識は一切通用しないし、バンパイヤ独特の価値観を持っているのだと。

 それに高位のバンパイヤは不思議な魔法やスキルがあると聞いたことがある。

 そう、例えば「人の思考が読める」とか……。

 今覚えば、当時の私の考えは長に筒抜けだったし、さぞかし扱いやすかっただろう。

 こうして私の悲鳴とも懇願ともとれる声が月夜の城内に静かに響いていく……。

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     丸みを帯びた濃ゆい紅色にとても秘めやかで可憐な6条のシルキーライン……⁈「ま、まるで、スタールビーみたい……⁈」 それに鳩の血のように鮮やかな濃い赤色……? それは紫系やピンク系の赤色を呈し、柔らかな光沢を見せている。 さらには石の内部からの輝きが強く、鮮やかなテリを見せている至高の一品……。「凄い! まるでピジョンブラッドのよう……」 私はあまりの感動に目を輝かせ、呆然と立ち尽くし、暫く言葉を失ってしまう。「はっはっは、どうやらこちらもご満足していただいたようじゃの? しかもその魔石は非加熱の天然物じゃよ? どうじゃ?」(ど、どうじゃと言われても……)  ほう……と、感嘆のため息が出ているのが自分でも分る。 なにせ二つともカットの仕上げが済んでいる状態にもかかわらず、20カラット以上ある超一級の極上品なのだから。(ううん! いけない、これを私が装飾するのよね) ……私は落ち着きを取り戻す為に大きく深呼吸し、いつものように自分の胸のペンダントに目をやる。「……失われた国宝と言われる、『ガリウスクィーンブラッド』か」 小次狼さんは私のペンダントを見て、ぼそりと呟く。 ガリウスクィーンブラッドとは、宝石の名の通り、ガリウス大陸産のクィーンブラッドの事である。 更に細かく説明すると、ガリウス大陸がまだ3つの国に分かれておらず、世界を統一していた最盛期の頃に国の王女が即位した印として身に着けていたことからその名前が付いたと言われている。(同じピジョンブラッドの中でもさらに、その頂点に君臨する代物なんだよね) 「確か、対となる国宝『ガリウスキングブラッド』もあるはずじゃが……」「…

  • 元怪盗令嬢【レッドニードル】レイシャは世界を変革す   第3話 もう一つの仕事

    (さてと、そろそろもう一つの仕事に取り掛からなきゃね……)  私はそんな事を考えながら玄関まで移動する。 『エターナル』の看板を『閉店』が見えるように裏返し、ドアに鍵を掛け、そのまま二階の個室に移動し静かに椅子に腰かける。 更には正面の木机の一番下の引き出しの鍵を外し、両手に持てる程度の大きさの木箱を二つ取り出す。 さらにさらに、その二つの木箱の鍵を外し開ける。 その中にはルビーの花いや、花だった原石が大量に入っており、淡い赤色の魅力的な光を放っていた。(うーん……! これを見るとわくわくしてくるし、自分のテンションが上がってくる!)  ちなみに、一つ目の木箱は『未鑑定』のもの。 二つ目の木箱は魔石の等級別に振り分けられている、即ち『鑑定済み』のものだ。 私はルーペで『未鑑定』の原石をじっくりと鑑定していき、慣れた手つきで『鑑定済み』の箱に仕分けしていく。 そうなのだ、花屋と兼業で行っているもう一つの私の仕事は『目利きの腕を活かした魔石商』なのだ。 その作業を始めてから数時間後……。 ドアを軽くノックする小気味いい音が聞こえてくるではないか。(あら? もう、そんな時間だっけ?) 私はそんな事を考えながら、右斜めの木製壁時計にちらりと目を向ける。 時計の針を見ると時間は丁度夕方の19時。(……時間的に多分あの人かな? しからば) 「……鑑定」 私はいつも通り、合言葉をドアの外に聞こえるように言う。「加工」  間髪入れずに、力強い合言葉がドアの外から聞こえてきた。(うん、間違いないとは思うけど保険をかけておくかな) 「今日の差し入れは何?」「……前回は『三色団子』だったじゃろ? 今日は約束通り、儂の手作りの『おはぎ』じゃよ? レイシャ嬢」「ちょっと待っててね」 手早くドアを開けると、真正面には初老と分かる短髪白髪に白い顎鬚、それでいて体格の良い男が立っていた。 年齢に似合わない、覇気のある鋭い眼光からは他のものを寄せ付けない歴戦の猛者であることが感じられる。(服装はいつも通り、禅国の忍と呼ばれる暗殺者集団が着る独特の黒装束を纏っているし、うん、間違いない小次狼さんだわ) 彼は良く見ると右手には緑色の風呂敷を持ち、背中には革リュックを背負っていた。「小次狼さん、お疲れ様……」「ふー、ほんと疲れたわい」 小次狼

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